避妊手術

いつの間にか、少し大きくなったみたいだ。

まだまだ子犬だけど、少しずつ確実に成長していることがわかって嬉しい。
その反面、手のひらの上であどけなく動き回る頃のてまりが、少しずつ懐かしくなっていくことに、刹那的な寂しさも感じる。
子育てをする親の気持ちはこういうものなのだろか。僕の両親もきっとこんな気持ちで、ずっと育ててきてくれたことに、いま改めて感謝する。

てまりの成長の過程で、なるべく避けてきた決断がある。

避妊手術をするかしないか。

なるべくは自然のままに、元気に生きてくれれば、それが一番良いことだとわかっていても、病気になる可能性や今後一緒に暮らしていくことを考えると、なかなか決断できず、後回しにしてきた。

てまりも生後7か月が経ち、いよいよ手術をするか否かを決断しなければならない。手術をするのなら、遅くなるほど病気のリスクは高まってしまうらしいから。

今日もてまりを抱っこしていて、こんなに元気で小さな体にメスを入れること、人間の都合を優先する自分に、自己嫌悪を感じた。

色々悩んだ挙句、信頼できる獣医さんに出会えればお願いしようと決めた。
やっぱり、この子に長く、健康で生きてもらいたかったから。この1匹を大事に育てていきたいと思う。

自分勝手な飼い主でごめんね、てまり。

今までは大きな総合病院でワクチン接種などをお願いしていた中で、先生が毎回うことに不安があった。今後生涯を通して寄り添ってくれる”先生”に、大事なてまりを預けたいと思い、ある個人病院にたどり着いた。

病院で説明を受け、それでもやはり不安だけど、業務的な対応ではなく、しっかりと向き合ってくれていると感じたから、その先生にお願いすると決めた。個人病院であれば、説明した先生と執刀医が違うこともないから。

今までペットホテルにすら泊まったことがないてまり。一泊入院する病院で、夜大丈夫だろうかと、こちらが気が気でなかった。

手術当日、病院に着いたとき、初めての場所で不安そうにしていたてまり。状態をみて大丈夫そうだということで、あっさり手元から連れていかれてしまった。

よろしくお願いします、先生にお願いすることしかできない。

てまりを病院に預けてからは、今てまりはどうしているんだろう、と時計を見るたびに心配した。
今夜はひとりで寝れているか。不安で鳴いているんじゃないか。そろそろ手術の準備が始まる頃か。今頃手術中だな、無事だろうか。…

手術後に病院から連絡があり、無事手術が完了したとのこと。

顔を見に来ても良いが、犬にとっては逆に寂しさを増長してしまうので、こっそり陰から見る程度にしてください、と。妻もずっと心配していて、やはり一目でも見たいということで病院に一緒に向かうことにした。てまりの無事は妻が確認し、僕は車に残ることにした。

一瞬目が合ってしまった気がする、と戻ってきた妻。

妻は少し安心したみたいで、先生とも話をして、てまりの摘出した子宮も見せてもらったみたいだ。
そのあとは特に何の連絡もなく、翌日の朝一に急いでてまりを迎えにいった。

診察室の扉が開くとヨチヨチてまりが歩いてきた。

手術前とそれほど変わらないように見えて、やっと僕も安心することができた。

傷跡の保護や飲み薬の説明を受けて、一緒に帰宅。

帰宅後、病院では変わらないように見えたてまりも、やっぱり元気はなく、少し歩きまわってはすぐに座ってしまい、表情が少し暗い気がする。大丈夫かなと心配になるくらい、その後はずっと眠っていた。

それから1週間くらいして、ご飯もしっかり食べるようになり、元通り元気に走り回ったり、ソファーに飛び乗る元気なてまりが戻り、”いつもどおりの日々”になった。

手術を無事に行ってくれた先生に感謝。そして、手術を頑張ってくれてありがとう、てまり。お疲れさまでした。

手術後の傷を保護するためのお洋服
数日後、ソファーの上に飛び乗ってくつろぐ