「映画を早送りで観る人たち」を読んで

<著者> 稲田 豊史

この本では、映画を早送りで観る人たちの深層心理に着眼し、現代社会に生まれた人々(主にZ世代)の感受性や価値観がしっかり言語化されている。
この感覚の言語化には多大な労力がかかったはずで、半端な言説ではないからこそ、深い共感を得た。

特に日常で“タイパ”が優先される価値基準の在り方への指摘は、僕のど真ん中を射抜かれたようで、少し偉そうな表現だけど、まさに言い得て妙だ、と感心した。思いがけず、改めて自らを知る読書体験になった。

……以下、率直な感想……

時間を無駄にしたくない気質に激しく同意。映画や本のランキングやおすすめ順位を教えてほしい、手っ取り早く一番良いものが見たいから。失敗を重ねて、やっと巡り合えたときの感動とそこに至るまでの経験値。そんな回り道を選ばずとも“最良”作品が目の前に提示されているなら、まずはそこから始めることが理に適っている。

だってその方が、明らかに効率(タイパ)がいいから。

人生は短い、人生は一度きり、もう戻らない時間……だから回り道は焦る。

あらかじめ“無駄になるかもしれない時間”に投資するのは怖い。

無駄にできない、無駄にできない……でも、無駄じゃないことって何?何なら自分にとって意味がある。何より大切な時間に代える意義があるものって何?

それがわからなくて苦しい。自分にとって意味がなければ、無意味、つまり無駄。何かを得るためには何かを失う。だけど、だからこそ、犠牲にした分、楽しまなくちゃ。でもその分の楽しみって、何をすれば埋め合わせできる?例えば、テレビゲームなんかじゃとても埋まらない。もっと意味あるのものに投資がしたいのに、自分が何をしたいかがわからない…。

これは自分の思考。

まさに、コスパ重視の根本的な思考から生じている問題だと気付いた。時間が貴重すぎて、何ものにも代えられず、それでも刻一刻と過ぎていく時間に焦り、それでも何も見えずに心が乱れる。

でも今、僕はこれについて一定の答えを持っている。

それは、“そもそもこの世に意味があるものなんてない”という結論だ。

だって死んだらゼロになるんだから。結局は失われていくものばかり。だから、“何が意味があるか”なんていう尺度は持たなくていい。

何かを始めるにあたり“それって何の意味があるの?”と考えて、一歩目を躊躇することは誰にでもあると思う。例えば英語の勉強、ジムで体を鍛えることに何の意味があるかと問われれば、確固とした意味がないことがほとんど。

意味がすべてではない。むしろ意味がなくてもいい。
何となく好きだから、何となくこうなりたいから…その何となくをやってみれば良いのだと思っている。
やってみて、もし違えばやめたっていい。でも本気で取り組んでみる。

それが無駄とかそんな偏狭な視点ではなくて、そうやって様々な挑戦や小さな成功体験を重ねていくことが生きるということなのではないかな、と思っている。

今回こうした内省のきっかけをくれたこの本に非常に感謝している。
この本は主にZ世代の人々の視点が多く含まれているので、その世代にあたる方には特におススメしたい。